金型を用いた製品製造において良品を得るためには,成形時における溶融材料や金型全体の熱流やこれらに伴う材料および金型自体の熱変形などをいかに制御するかが重要となる. このような金型の熱流制御は,一般に金型に加工された冷却穴を通る冷却液の流量や温度を制御することによって行われている. また,最近ではコンピュータの急速な進歩によって成形時に起きる物理現象のシミュレーションが可能となり,冷却穴の適切な配置が分かるようになってきた. しかし通常,冷却穴はドリルで加工されるため,単一もしくは複数の直穴で構成された折れ線状の穴形状とならざるを得ない. それゆえ,シミュレーションなどにより最適な穴形状および位置が分かっていながら,その穴形状を加工する方法が存在しないため,折れ線状の穴形状を最適とは言えない位置に加工することで妥協しているのが冷却穴の現状である. このような問題を解決するため,放電加工機能を有した自走機構による曲がり穴加工法を考案した. しかし,この自走機構には曲率のある深穴の底といったような狭窄領域においての放電加工が要求されるので,自己完結的に電極間距離を制御する機構を具備する必要がある. そこで本研究では,電極間距離を自動的に制御する機構を開発した. この機構は主に通常の圧縮コイルばねと形状記憶合金(SMA)製の引張コイルばねで構成されており,自動的に電極間距離を制御することができる. この機構を電極間距離自動制御機構(Automatic Discharge Gap Controller:ADGC)と呼ぶ. 実験の結果,ADGCが自己完結的に電極間距離を制御することによって,安定な放電加工が得られることを証明した.
T.Ishida