これまで行われてきた機械加工によるマイクロ溝の加工は,一般的には,旋盤系の加工機を用いることが多く,加工可能な溝形状は限定されていたが,最近では4軸制御超精密加工機を用いた自由度の高いマイクロ溝加工も試みられている.
我々はすでに,フライス系の5軸制御超精密加工機を用い,フライカット法によりマイクロ溝加工を行ってきた.しかし,フライカット法による加工では,に示すように溝の始点および終点に工具回転半径分の非常に長い切上りが生じてしまうため,試料の上に溝の始点および終点があるマイクロ溝の加工は困難であった.また,フライカット法は曲がった溝の加工には適していない等の問題もある.
本研究では非回転工具の利点に着目した.すなわち,非回転工具による加工では,刃の形状および軌跡がそのまま被削材に転写されるため,に示すように溝の始点および終点の切上りを短くすることができる.また,非回転工具を用いることによって工具の逃げ面と溝が干渉しない範囲で連続的に変化する様々な曲率の溝も加工でき,より複雑な溝形状を持つ光学素子加工への応用が可能である.しかし,非回転工具による加工は切削速度が加工機の送り速度と一致するため,切削速度は非常に低速となる.このような低速領域における切削現象は,未解明の部分が多いのが現状である.したがって,本研究では既存の5軸制御超精密加工機に非回転工具を取り付けて基礎的な実験を行うことにより,非回転工具による低速領域における超精密マイクロ溝加工の可能性を検討した.
実験の結果,鋭利な工具と精密かつ振動の少ない加工機を用いれば,非回転工具による切削速度の遅い加工も可能であり,良好な加工面が得られることが分かった.今後は非回転工具を用いた光学素子加工への応用も期待できるものと考える.