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非回転工具を用いた超精密マイクロ溝の創成

Creation of Ultraprecision Microgrooves Using Non-Rotational Cutting Tools

前田真児,竹内芳美,佐田登志夫,沢田 潔,河合知彦

精密工学会誌 66巻 第9号 (2000.9) 1456-1460.


Crossed V-shaped microgroove Paralleled V-shaped microgroove Curved V-shaped microgroove
LEFT : Crossed V-shaped microgroove
CENTER : Paralleled V-shaped microgroove
RIGHT : Curved V-shaped microgroove


 近年の情報技術の進歩に伴い,各種光学素子,電子素子の小型化,高集積化の要求が高まっており,光学素子の分野ではホログラフィック光学素子(HOE : Holographic Optical Element)などがこれらの要求にこたえるものとして注目されている.このような光学素子はミクロンオーダのピッチで刻まれたマイクロ溝による光の回折効果を利用したものであるが,取り扱う光学系が複雑になるに従い,HOEを構成するマイクロ溝の加工技術に関しても高度化の要求が高まっている.

 これまで行われてきた機械加工によるマイクロ溝の加工は,一般的には,旋盤系の加工機を用いることが多く,加工可能な溝形状は限定されていたが,最近では4軸制御超精密加工機を用いた自由度の高いマイクロ溝加工も試みられている.

 我々はすでに,フライス系の5軸制御超精密加工機を用い,フライカット法によりマイクロ溝加工を行ってきた.しかし,フライカット法による加工では,に示すように溝の始点および終点に工具回転半径分の非常に長い切上りが生じてしまうため,試料の上に溝の始点および終点があるマイクロ溝の加工は困難であった.また,フライカット法は曲がった溝の加工には適していない等の問題もある.

 本研究では非回転工具の利点に着目した.すなわち,非回転工具による加工では,刃の形状および軌跡がそのまま被削材に転写されるため,に示すように溝の始点および終点の切上りを短くすることができる.また,非回転工具を用いることによって工具の逃げ面と溝が干渉しない範囲で連続的に変化する様々な曲率の溝も加工でき,より複雑な溝形状を持つ光学素子加工への応用が可能である.しかし,非回転工具による加工は切削速度が加工機の送り速度と一致するため,切削速度は非常に低速となる.このような低速領域における切削現象は,未解明の部分が多いのが現状である.したがって,本研究では既存の5軸制御超精密加工機に非回転工具を取り付けて基礎的な実験を行うことにより,非回転工具による低速領域における超精密マイクロ溝加工の可能性を検討した.

 実験の結果,鋭利な工具と精密かつ振動の少ない加工機を用いれば,非回転工具による切削速度の遅い加工も可能であり,良好な加工面が得られることが分かった.今後は非回転工具を用いた光学素子加工への応用も期待できるものと考える.


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