○製作物


まず初めにどのようなものを製作すればよいかを考え,自分たちがもらって嬉しいと思うものとして,金属でできたユリの花のキーホルダーを製作することにした.
サイズは加工のことも考えてキーホルダーとしては少し大きめ45×45×45の立方体に収まるように決定した.
下図は完成品のイメージ画である.右から上面図,断面図,正面図となっている.

○材料


次にユリの材料の選定を行った.
候補として上がった材料は鉄,黄銅,ステンレス,アルミニウムであった.
加工,キーホルダー,大量生産という点から,求められる材質は以下の3つの条件が挙げられる.
この条件より私たちは以上の条件を満たすものとしてアルミニウム5000系を選んだ.
またアルミニウム5000系の特徴は以下である.

○工程


ユリのCADデータが出来上がったのち,実際にどういう工程で製作していくかを検討した.
まずユリを上部と下部の2回に分けて加工することに決めた.3軸の切削加工機では工具がある側と逆の部分は削ることが出来ないので,上部と下部2回に分けて削ることは必至であった.
そして加工の利便性を考えて,最初に円柱からユリの下部を削りだし,次に削りだした花びらの茎に近い部分を後述する治具というもので固定し,ユリの上部の花びら部分を削ってゆくという手段を用いることにした.
もしもこの順序を逆にした場合,後半の加工で被切削物を治具で固定することが極めて困難である.


旋盤,ノコ盤を用いた材料の形出し
↓↓
3次元切削機を用いたユリ下部の切削
↓↓
3次元切削機を用いたユリ上部の切削
↓↓
完成


○CADデータ作成


材料が決定したらユリのCADデータを作成した.
まず,3軸のマシニングセンタで加工可能な形状になるようにデザインし,スケッチした.


スケッチを元に3次元CADソフトでデータを作成した.
CADソフトはSpaceControl社のSolidStationLEを使用.

シェーディング ワイヤーフレーム
上面図
正面図 側面図

○寸法



材料のサイズについては,当初キーホルダーとしてふさわしい小型の物を創る予定であったが,花びらの茎の部分を治具で固定することを考慮に入れると,あまり細すぎては強度に欠けるということで,大きくする(太くする)という苦渋の決断を強いられた.
また後に触れるが,キーホルダーの穴を開ける部分(ユリの下部,茎の部分)について,治具にはめ込んで固定させるという重要な役割も担っているので,長めに取り直した.
そして,実際に決定した長さは,Φ40mm×49mm実際はΦ41mmの円筒状の長い棒を購入し,旋盤を用いてΦ40mmへと削り,直径方向に対する精度を高めた.この時底面の面出しとその部分の面取りも行っている.
そして次にエンドレスのこぎり盤で縦方向を49mmに切断して必要な材料の形状を出した.
このような過程を以って個々の材料の寸法を取った.

旋盤での面出し
↓↓
円柱の直径の調整
↓↓
円柱の面取り
↓↓
ノコ盤での切断
↓↓
完成

○治具


治具とは・・工作物を正しく取り付ける役目のもの.

今回使用する治具は2つである.
材料:鋳鉄

l 第一の治具
旋盤で作成した円柱を固定してユリの裏側を加工するために用いる.
この際裏側を加工するので保持できる高さは12mmとなる.

全体図 試作

実際には,円柱材料を8個取り付け同時に加工することとした.
鋳鉄で作成する前にアルミ材料で試作品をつくり性能を評価してみると,保持することができたので鋳鉄で治具を製作した.

完成図

l 第二の治具
第一の治具を用いて裏側を加工したのち,反転させ表側を加工するのに用いる.
この際方向を固定させるために,キー溝を加工した.

全体図 試作

試作を行った結果,改良点が生じた.

完成形

試作

完成した治具を用いて,ユリの試作を行った.これにより改良を行ったのは次の点である.
・ユリを押さえる板は当初,何も加工を行っていなかったがこれでは不安定であったために,溝を掘った.

○加工条件


実際に製作物を削るには,必要な工具を決定しなければならない.製作物であるユリは全体が曲面で構成されているためボールエンドミルを使用することにした.工具の種類の次はその大きさを決める.ボールエンドミルの大きさは球状になっている先端部分の半径により表される.当然先端が細いほうが細かい加工が可能になるが,その分加工に時間がかかってしまう.
ボールエンドミル

また加工には「荒加工」と「仕上げ加工」がある.荒加工では材料から製作物のおおよその形を作ることが目的であるためできるだけ大きな工具を使用して早く削る.荒加工が終わったら仕上げ加工に入る.仕上げ加工では製作物において最も狭いところに合わせて工具を選んで削る.今回は研究室にある工具から先端の半径がR5.0mmのものを荒加工用,R1.5mmのものを仕上げ加工用に決定した.
工具が決定したら,実際に工作機械で使うときの条件を算出した.決めなければならない条件は,工具回転数,送り速度,切込み量,ピックフィード量の4つである.また,工具カタログには工具ごとに推奨される切削速度や回転数,送り速度等が掲載されている.カタログから得られた値から計算を行うことで切削条件を決める.
以上のように決定した工具,切削条件をCAMソフトに入力することでNCデータを作成する.NCデータとはNC(数値制御)工作機械に,どのように動くかを指示するものである.

実際にマシニングセンタで試作を行った.
まず,作成したNCデータを使用してCADでデザインした形状を得られるかどうかを調べた.
ここでは,設計した治具で材料を押さえることができるかどうかは問題ではないため,バイスで直接保持することができる四角柱を試作材として用意した.また,前に作成したNCデータは円柱用だったので四角柱から削るためにデータを作り直した.
試作結果は以下のようになった.
裏側(1回目) 表側
工具干渉部 裏側(2回目)

表側はきれいに削れているようだったが,裏側の結果をみると,本来削る必要がない部分が削られてしまっていた.これはR1.5の工具干渉によるものであると考えられるため,工具をR3.0に変更してもう一度試作しました.結果は写真のようになり,デザインした形状を得られることが確認できた.


○量産について


ユリ試作完了後,NCデータを量産型に変更した.

データを量産型にするには,“ユリ1つを削るデータ”をサブプログラムとして用い,メインプログラムに“移動を示すデータ”を定義すればよい.しかしDNC運転1ではプログラムを読み込みながら運転しているので,メインプログラム稼動中にサブプログラムを読み込むことはできない.
(サブプログラムを読み込み始めたら,メインプログラムが途中で中断されるから?サブプログラム終了時にメインプログラムに戻れない?)
(KIRAの場合は,転送を制御しているのがPCだから,サブプログラムを転送することはマシンにはできない)


プログラム開始

最初に削る円柱上に移動
G92でワーク座標系の変更

 
  ユリを削るデータ
 

次に削る円柱上に移動
G92でワーク座標系の変更

 
  ユリを削るデータ
	 

次に削る円柱上に移動
……

プログラム終了

そこで,「ユリ切削→次の材料に移動→ユリ切削→次の………」という一連の流れを1つのファイルに収めた.

ユリのNCデータは絶対値指令のデータなので,そのデータを流用するにはマシンの座標系を変更しなくてはならない.
そこで,G92というワーク座標系の変更を行えるNCコードを用い,量産型プログラムを完成させた.


<補足>
G92(ワーク座標系設定)
G92を指令することによりNC工作機械の現在位置を同一ブロック内で指令した各制御軸の値にプリセットできる.これにより以降の動作はプリセットされた座標系で行える.


図−3

ポイント eに主軸がいる時にG92 X80. Y-25.と指令しますと cだった0点が d に移動し,以降 d を0点として移動命令に従う.
プログラム例
N001 G90 X280.152Y55 (G92で変更前の移動指令)
N002 G92 X80.Y-25 (G92で新座標設定)
※この場合変更前のX200.152Y80.に0点が設定される.
N003 X-100.152 Y0 (新ワーク座標系での移動命令になり移動結果として主軸はfに移動する)

元の座標系に戻すにはG92.1を指令します.(KIRAの場合は原点復帰ボタンでOK)



1DNC(Direct Numerical Control)運転とは、CNCの外部からインタフェースを介して、プログラム読み込みながら行う自動運転のこと。