実習工場マシニングセンタA55の使い方

Makino A55
    1.はじめに
     1.1  NC工作機械とは
     1.2  CAD/CAMとNC工作機械
    2.NCプログラム
     2.1  NCコードの説明
    3.マシニングセンタA55
     3.1  概略
     3.2  動かしてみよう
    4.DNCによるプログラム運転
     4.1  段取り  〜 ワークの取り付け 〜
     4.2  NCデータの転送
     4.3  注意事項
     4.4 加工終了後
    5.最後に

1.はじめに

1.1 NC工作機械とは

現代の生産現場においては,工程の自動化が推進されつつあります.従来,熟練し た職人の手や,労働者の労苦に依っていた各種の作業が機械で行なわれることによっ て,より効率的かつ正確に遂行できるようになりました.こうした流れの中で,NC (Numerical Controlled:数値制御)工作機械は誕生しました.初期のNC工作 機械は紙テープにパンチ穴を開けてプログラミングしたものを読み込ませて自動運転 を行なっていましたが,近年のコンピュータ技術の進歩に伴い,NC装置内部にマイ クロプロセッサを搭載したCNC(Computerized NC)工作機械が生まれ,さらに, 自動プログラミングシステムなどで出力されたNCプログラムを通信回線によりNC装 置の内部メモリに直接転送するDNC(Direct NC)機能を備えたものも開発されま した.これらは現在の主流となっています.

本ページはこのようなNC工作機械の一つである,CNCマシニングセンタを用い た自動加工を体験し,NC工作機械の操作方法と自動生産について学ぶことを目的と しています.

1.2 CAD/CAMとNC工作機械

NCプログラムには主に,工具経路に関する座標情報と各軸の送り速度や回 転数に関する指令などが含まれています.さらに多軸制御の場合には工具姿勢 情報なども入ることになりますが,これらの指令は目的の加工物の形状や材質 などに対して最適なものを与えてやる必要があります.単純な形状であるなら, 直接人間がプログラムを考えて入力してやってもよいのですが,自由曲面など を用いた幾何学的に複雑な形状に対しては大変な労力や計算を必要とするであ りましょう.こうした加工目的に対して,自動でNCプログラミングを行なう ものがCAM(Computer Aided Manufacturing)システムです.さらに,CA Mが自動プログラミング処理を行なう元となる目的の加工形状情報はCAD (Computer Aided Design)で定義を行なったものを用いるのが普通です.こ うした,CAD/CAMシステムとNC工作機械を結び付けることにより,設 計から加工までをコンピュータによって統合する自動生産体系を構築すること が可能であります.

2. NCプログラム

2.1 NCコードの説明

以下に3軸加工用NCプログラムの一例を示します.各コードの意味は図中に示し た他はマニュアルを参照して下さい.座標指令値にはアブソリュート(絶対)指令と インクリメント(相対)指令のいずれかを選択できます.アブソリュート指令は一つ の原点に対しての座標値を指令値として示したものであり,データ量は大きくなりま すが,誤差が蓄積しないという利点があります.一方,インクリメント指令では,1 ブロック前の指令座標を原点として次の指令座標を指定するので,データ量は少なく て済むのですが,誤差が蓄積してしまうという欠点があります.この例ではアブソリ ュート指令を採用しています.

-------------------------------------------------
O1230
G90G54
G01F3000;S3000;M3;
G00X0.271Y47.561
G01Z53.F3000
X10.271F2000
G02X11.203Y59.467I76.499
X20.606Y77.049I33.511J-6.616
X84.827Y69.673I29.433J-27.001
X58.339Y10.884I-34.824J-19.671
X49.999Y9.99I-8.444J39.392
X17.989Y25.736I0.512J41.45
X13.138Y35.05I39.375J26.427
G01X13.134Y35.049
X13.666Y33.356
G02X11.32Y38.681I14.976J9.779
G01X10.703Y42.261
X10.831Y42.468
X10.988Y42.115

G02X-0.934Y37.436I12.554J50.936
X-2.999Y40.228I0.941J2.856
G01X-3.Y40.245
G02Y40.292I3.007J0.047
G01X-2.999Y47.561
X-12.999Y47.562F3000
Z50.
G00X0.Y0.
M30;
-------------------------------------------------

3. マシニングセンタA55

3.1 概略

このぺージにて説明する機械は,株 式会社牧野フライス製作所製のCNC横型マシニングセンタ A55です.X,Y,Zの 3軸制御で,各軸の剛性,位置決め精度共に高く,主軸回転数,送り速度も高 速に対応しており,高速かつ高精度な加工が可能な機械です.

3.2 動かしてみよう

3.2.1 起動方法

図2の番号に示す場所を以下の手順に従って,シス テムを起動させて下さい.特に,エアコンプレッサに関してはドライヤを起動 して十分にエアを乾燥させてから(5分程度)コンプレッサ本体を起動させる ようにして下さい.

  1. エアコンプレッサのドライヤ電源ON
  2. 5分間の暖気の後,エアコンプレッサ本体の電源ON
  3. モニタ用パーソナルコンピュータの電源ON
    (ブートセレクタで「FANUC CNC」を選択)
  4. A55の主電源ON
  5. NC電源ON

3.2.2 最初にすべきこと(原点復帰)

NCを起動させると,ディスプレイモニタに起動メッセージが出た後でポジ ション表示の状態になります.システムを立ち上げてまず最初に必ずやらなく てはいけない作業が原点復帰です.原点復帰とは,各軸を零点に戻して,初期 化してやる作業のことです.A55で原点復帰を行なう場合,各軸ごとに手動 で行なう方法と,全軸を一度に自動でやってしまう便利なワンタッチ機能を使 う方法とがあります.ここでは,簡単かつ迅速な方法として,ワンタッチ機能 を使ってみましょう.

図3にNCパネルの配置を示します.実際のパネル 上で図3の(4)に示した部分を見て下さい.上に「ワン タッチ機能」と書かれたエリアにボタンが6つ並んでいます.その一番左上の ボタンを見てください.「全軸原点復帰」と書かれていますね.そのボタンを 押して,押したボタンが点灯するのを確認したら,同じエリアの一番右下の 「起動」と書かれた緑色のボタンを押してください.

各軸が一斉に動き出しました.この時,図3の(1)に 示したエリアの左下のあたりに「原点」とタイトルのついたグリーンのランプ が5つ並んでいますが,そのランプのX,Y,Z,4THの4つが次々に点灯 します.これは各軸が原点に復帰したことを示すランプです.5THはダミー ですので,4つが点灯したことを確認したら,原点復帰は終了です.

3.2.3 ハンドルモードと早送りモード

図3の(6)に示されているのが,モード選択エリアで す.この中で,ボタンが点灯しているのが現在の制御モードです.手動で制御 軸を動かす場合は,「ハンドル」を選択します.ハンドルモードでは1軸ごと の制御になります.制御軸の選択は図3の(15)のダイ ヤルで行ないます.また,その下の(16)のダイヤルで送り速度倍率の選択をし ます.実際の送りは(14)のハンドルを回すことによって行ないます.

また,もう一つの方法として,「早送り」モードを選択した場合についても 説明します.図3の(8)のエリアのボタンで制御軸を選 択し,+,−のボタンで選択した軸を送ります.ボタンを押している間は動き 続け,はなすと止まります.送り速度は(11)のダイヤルで調整します.

3.2.4 NCコードによる操作

前項ではパネルのスイッチによる操作を説明しましたが,実際のプログラム 運転の基本となるNCコードの直接入力による制御について簡単に説明します.

NCコードの手入力はMDIモードで行います.まず, 図3の(6)でMDIを選択します.中央のソフトキー部分の右下にある 「PROG」と書かれたキーを押して下さい.モニタがプログラムモードにな ります.これでNCコードの入力待ちになりました.試しに次のように打ち込 んで下さい.

        B60;

これはB軸(パレット)を60度の位置に回転させる命令です.キーを見る と,「 ; 」が見当たりませんが,テンキー(数字キー)の下にある「EOB」 がそれに相当しますので,それを押してください.また,打ち間違えた場合は, 「CAN」キーがバックスペースに相当しますので,それで戻り削除して,訂 正してください.一行打ち終えたら,「INSERT」キーで,メモリ領域に 登録されます.モニタ画面上では下の入力エリアから上の確定エリアに移るは ずです.一度登録された行は訂正はできませんが,左上の赤い「RESET」 キーでメモリ領域をクリアできますので,登録後に訂正したい場合は,一度ク リアしてまた最初から打ち直して下さい.

これでNCコードの入力が終わりました.これを実行させるのは図3の(3)のエリアの右下にある「サイクルスタート」という 緑色のボタンです.はやる胸を抑えて実行させます.パレットがテーブル上で くるりと向きを変えましたね.このような形で,A55の持つほとんどの機能 はNCコードの入力で制御できます.

3.2.5 便利な機能

パレットチェンジャ機能

本工場のA55のパレットは裏と表にワーク(加工対象物)を固定するため の治具を取り付けることができます.本機はこのパレットを2枚装備しており, 必要に応じて交換することが可能です.また,基本的に治具やワークの取り付 けは機械の外側で行う方が容易なので,外で取り付けたワークを機械の内側に 廻す際にもこの機能を使用します.さて,パレットチェンジャを起動させるに は準備作業が必要です.まず,Z軸とB軸を原点復帰させる必要があります. ここは,ワンタッチ機能の全軸原点復帰を使ってしまいましょう.各軸の原点 が出たら,外側のパレットテーブルの横にある赤,緑,二つのボタンのうち, 緑の方を押します.もし,ここで,押したボタンが点灯しないのなら,外側の パレットが裏返っている可能性があります.パレットテーブルの下にある固定 レバーを引き,パレットを180度回転させ,再びレバーを戻して固定させて 下さい.この状態で再度グリーンのボタンを押せば,点灯するはずです.もし, それでも点灯しないようなら,原点復帰からやり直して下さい.

準備が終わったら,MDIのPROGRAMモードで以下のようにNCコー ドを入力して下さい.

        G91G28B0; [INSERT]
        G91G30Z0; [INSERT]
        M60; [INSERT]

以上をメモリ領域に登録したら、図3のエリアの(7) 「サイクルスタート」を押して下さい.パレットテーブルが持ち上がって回転 し,内外2枚のパレットが入れ替わります.

ATC(オートツールチェンジャ)

マシニングセンタの特徴の一つは各種エンドミルやドリルなど,複数の工具 (ツール)を自動交換して使用できる点にあります.この自動工具交換装置を ATC(A- uto Tool Changer)と呼びます.本工場のA55は動作時間0. 9秒の高速ATCと8連ツールマガジンを装備しており,最大合計9本の工具 を任意に使い分けることができます.以下にATCの使い方を説明します.

まず,工具はコレットホルダに固定されている必要があります.あらかじめ マシニングセンタ裏側のATCマガジンアクセスドアを開け,工具を固定した ホルダをATCマガジンに装着しておきます(強く押し込む).このとき,装 着した穴の番号に対応した工具番号が設定されています.設定方法についての 説明はここでは省略します.

工具交換が必要になったら,MDIのPROGRAMモードで以下のように NCコードを入力します.

       T 工具番号 ; [INSERT]
       M6;[INSERT]

パレットチェンジと同様に「サイクルスタート」ボタンを押して下さい.主 軸が奥へ移動し,勢いよくスライドドアが開いてアームが高速で工具を交換し ます.その際,勢いでオイルが飛び散ることがあるので,スプラッシュガード ドアを閉めておくか,正面には立たない方がよいでしょう.もちろん,これら の機能はNCプログラムに組み込むことで,自動運転中に使用することも可能 です.また,ATCはワンタッチ機能でも動作させることもできます.この場 合は,工具番号の選択は無く,スライドドア裏側に来ている工具との交換にな ります.ワンタッチ機能での起動方法は原点復帰の場合と同じです.

4. DNCによるプログラム運転

4.1 段取り 〜 ワークの取り付け 〜

4.1.1 ワークの取り付け

パレット上の治具にワークを取り付けます.基本的にはフライス盤などにお ける取り付けと同様です.ここでは具体的な手順は省略します.

取り付けたら,ダイヤルゲージなどを用いて,水平を確認して下さい.水平 でない場合には調整して下さい.

4.1.2 ツール(ホルダ)のクランプ

ツールホルダを主軸に取り付ける方法はATCを使う方法と,手で直接取り 付ける方法とがあります.ATCについては既に説明しましたので,ここでは 手で行う方法について説明します.

まず,パネルの上部(図3の(1))を見て下さい.キー シリンダに鍵が2本差してありますね.その左の方のキーには「ドアインター ロック解除」と書いてあります.このキーをオンの方向(すなわちインターロッ クを掛けた状態)に捻って下さい.(ここで,まさか「うなって下さい.」と 読んだ人はいませんね.この漢字は「ひねって」と読みます.)この状態で, 左上の非常停止ボタンの真下にある「工具アンクランプ」ボタン( 図3の(2))を押します.スピンドルから「カコン!」と 音がしてボタンが点灯したはずです.ちなみに最初から点灯していたのならこ の操作は不要です.次に,工具を固定したコレットホルダを片手で持ち,主軸 スピンドルのセンター穴に押し込みます.このとき,スピンドル側の凸部とコ レット側の切り欠きとが噛み合うようにはめて押さえるようにして下さい.そ してコレットを片手で押さえたまま,もう一度「工具アンクランプ」ボタンを 押して下さい.再び「カコッ」と手応えがして,コレットホルダがスピンドル に固定されます.念のため,押さえていた手で軽く引っ張ってみて下さい.抜 けなければ大丈夫です.

また,取り外すときは同様にコレットホルダを手で押さえながら,「工具ア ンクランプ」ボタンを押すと,外れます.このとき,くれぐれも手で押さえる ことを忘れないようにして下さい.コレットホルダが真下に落ちて工具や機械 に損傷を与えてしまいます.

4.1.3 ワークの原点出し,座標系の設定

ワークを取り付けただけでは機械はワークとの位置関係を把握していません. そこで,機械座標上におけるワークの原点を割り出して登録してやる必要があ ります.X,Y軸の原点を出すには芯出しバーをスピンドルに取り付け,ワー クの側面に触れさせて測ります.方法の詳細については,フライス盤などで行 う場合と同じなので,ここでの説明は省略します.ただし,注意点として,芯 出しバーを使用する場合の主軸回転数は300〜500rpm程度を目安にし て下さい.絶対に1000rpm以上で回さないこと.高回転で回すと,スプリン グがちぎれて弾丸のように飛んでくる恐れがあります.特に,主軸回転数は最 後に使用した時の設定値がそのまま残っているので,必ず,MDIのPROG RAMモードで以下を実行してから原点出しを行なうように心がけて下さい.

        S400; [INSERT]
        サイクルスタート

なお,この原点出し作業での主軸の起動,停止はパネル最上部( 図3の(1))のボタン(赤と緑)で行ないます.また,X, Y軸はハンドルモードで動かして下さい.さらに,Z軸については工具を取り 付けた後行なって下さい.

一般に芯出し操作はハンドルモードで行ないます.ディスプレイ表示はPO SITIONモード(「PROG」キーの左隣の「POS」キーを押す.) にして機械座標値を表示させておき,各軸について芯出ししたところの座標値 (原点座標値)を読んでメモしておいて下さい.

次にそのメモを基に座標系を設定します.ソフトキーの「OFFSET S ETTING」キーを押し,G54の座標系に先に求めた座標値を基に,芯出 しバーの半径などを考慮した値を入力します.このとき,オフセットの方向 (+か−か)をくれぐれも間違えないようにして下さい.俗に「工具干渉」と 呼ばれる事故が発生する危険があり,最悪の場合スピンドル破損というとって も不幸な結末を迎える可能性があります.

4.2 NCデータの転送

4.2.1 FDMATE(EWS)の立ち上げ

本工場のシステムにおいてはDNCデータの管理,転送をFDMATEとい うE-WS(Engineering Work Station)によって行なっています.それでは, このFD-MATEを起動してみましょう.

まず,匡体正面に蓋のついた緑と赤の2つのボタンがあると思います.この 緑の方を押して下さい.CRT画面上にシステム起動メッセージが現れてブー トが始まり,やがてログインシェルが現れて入力待ちの状態になりますのでロ グインして下さい.ログイン名は ncpkg です.

4.2.2 NCプログラム管理パッケージ

ログイン後,コマンド入力待ちの状態になったら,以下のように打ち込んで NCプログラム管理パッケージを実行します.

        np_start

このアプリケーションは主にNCテープファイルの管理や転送,編集などを統 合的に行なうもので,これによってA55などの登録された各NC工作機械に 割り当てられたデータ領域に必要なNCプログラムを配置することができます. では,具体的に外部で作成されたNCプログラムファイルをA55に転送する までの手順について説明しましょう.

ネットワークによる外部ファイルの取り込み

まず,ログイン後のコマンド入力待ちの状態で(NCプログラム管理パッケー ジを実行中であれば一旦終了させて下さい.)カレントディレクトリを 〜 /ncdata/Bにチェンジします.次にftpを用いて作成したNCデータを保存 してあるサーバからgetしてきます.ftpの使い方に関してはここでは説 明は省略します.

このデータは作成したCAMシステムによってはNCデータとしては不完全 な形で入っていることがあります.このままではNCデータを転送することが できないので,viエディタで以下のように編集します.

以上を確認し,もしそうでないようなら,書き足して下さい.

以上の作業が済んだら,NC管理パッケージを実行し,グループをB:外部 入出力領域にセットし,ファンクションの複写を用いて目的のNCプログラム をグループ領域2:FS16MBにコピーします.

フロッピーディスクによる外部ファイルの取り込み

まず,作成したNCデータをセーブしたMS−DOSフォーマットのフロッ ピーディスクを用意して下さい.このフロッピーをFDMATE本体前面のフ ロッピーディスクドライブに挿入します.次にコンソール上でカーソルキーを 用いてグループの選択をB:外部入出力領域にセットし,入出力コマンドでフ ロッピーからデータをロードします.

この時,このデータは 〜/ncdata/B に転送されたままの形で入っています. このままではNCデータを転送することができないので,一旦,NC管理パッ ケージを終了し,そのディレクトリに移り,viエディタで同様に編集します. それ以降の操作も同じです.

4.2.3 A55側での選択

さて,NCデータを複写したFS16MBはA55の専用領域であり,ここに存 在するプログラムはA55側で選択が可能になります.そこで,次の作業はA55 側で行ないます.A55のNCパネルに移って,MDIのSYSTEMモードを選 択し,ディスプレイモニタ下に並んでいる画面下ソフトスイッチ(小さい長方形の キー)の一番右にある三角印が刻印されたキーを数回押し,画面下に「通信OP」 が表示されたら,その真下のソフトキーを押して選択し,操作+ストリングモード でカーソルキーを用いてカーソルを移動させ,先にFDMATEで設定したO番号 を入力します.これで目的のNCプログラムが選択されました.

4.2.4 START!

さあ,これで加工の準備はできました.まず,モード選択ボタンの「テープ」を 選択します.テープモードにしたら,いよいよ加工開始です.はやる気持ちを抑え て「サイクルスタート」ボタンを押します.さあ,動き出しましたね.後は事故の 起こらないことを祈りながら待つだけです.待っていればきっと貴方は設計通りの ワークを手にすることができるでしょう.いやー,NC工作機械って素晴らしいで すね.ちなみに,プログラム運転中に運転を一時的に中断させたい時は,「サイク ルスタート」ボタンの左隣にある赤い「フィードホールド」ボタンを押します.す るとボタンが点灯して運転を一時的に停止します.この際,主軸は停止しないので ,注意してください.運転を再開する時は,再び「サイクルスタート」ボタンを押 せば中断させた続きの部分からプログラムを実行します.ただし,フィードホール ド中にキーボードの「RESET」キーを押してしまうとプログラムが振り出しに 戻ってしまうので,気をつけて下さい.

4.3 注意事項

4.3.1 エアカットのススメ

実際の加工前に,エアカット(文字通り空を削ること)を行なって,無理な加工 パスをとっていたりプログラムにバグがないかどうかを確認してみることをお勧め します.一般的にはワークを取り付けた後に,OFFSET SETTINGで+ Z方向にオフセットをとってプログラムを実行する方法をとります.オフセット量 はワーク形状や加工深さにもよりますが,50〜100mm程度が普通です.ここ で,注意すべきことは,くれぐれもオフセット方向を間違えないこと.安全側へ逃 して確認するためのエアカットが,本加工よりも危険な状況になってしまいます. 実際に過去に,オフセット方向を間違えて,工具が治具に突進して激突し,粉々に 砕け散った事故がありました.どんなに気を付けてもミスというものは起こるもの です.しかし,万一オフセットを間違えた場合でもこの様な最悪の事態を防ぐ方法 はあります.それについては次に説明します.

4.3.2 送り速度制御(オーバーライド)について

A55は高速加工が可能なマシンです.それゆえ,当然のことながら,各軸 を非常に高速に送ることができます.しかし、それは時として諸刃の剣となる ことがあるのです.前述の不幸な事故はオフセット方向を逆に取ったことによ り起こったものでしたが,事故を防げなかった原因がもう一つありました.そ れは送り速度が高速だったために,オペレータが異常に気づいて止める余裕が 無かったことです.基本的に送り速度はNCプログラム中で指定されるもので すが,その値を基準に機械側で調節することができます.

NCパネルの下の方を見て下さい.ダイヤルが真横に4つ並んでいるところ がありますね.一番左(図3の(10))はジョグモード での速さ調節のダイヤルです.今回重要なのは,右の3つです.この3つのダ イヤルは右から順に主軸回転数(図3の(13)),加工 送り速度(図3の(12)),移動送り速度( 図3の(11))をパーセンテージで調節するものです.それ ぞれ,100%にセットすれば,プログラム中(もしくはMDI)で指定した 値で動作します.つまり,もとの設定値を基準に一時的に加工速度を手動で変 える場合に使用するものです.

エアカットなど,動作確認を目的としている場合には,これらのダイヤルを 25%程度にしておくことをお勧めします.その程度のスピードならば,干渉 を未然に察知して停止させることができますし,各軸の駆動状況が判りやすい ので,加工状況のシミュレートという目的にも向いています.また,実際の加 工時にも,最初は25〜50%程度で実行して,切込みなどが安全で適切であ ることを確認してから100%に(安全と判断できるのならば,それ以上に) セットするという形をとるのがいいでしょう.これらのダイヤルは動作中に回 しても問題ありません.

4.3.3 シングルブロックのススメ

 画面下メインパネルの右下,主軸回転数オーバーライドダイヤルの上に位置 するスイッチ群(図3の(9))を見て下さい.その中の 左上に「シングルブロック」と書かれたボタンが見つかると思います.これを ONにしておく(ボタンを押して点灯した状態)ことで,テープモードでのプ ログラム運転の際に,プログラムを一行ずつ実行していくことができます.プ ログラムを一行実行すると,自動的にフィードホールド状態になるので,その 都度「サイクルスタート」ボタンを押して次の行を実行させていきます.これ は前述のオーバーライド機能と併用して,プログラムの動作確認を行なう際に 使います.

4.3.4 スプラッシュガードドアインターロックについて

 スプラッシュガードドアインターロックとは,安全のため,加工室のドアが 開いている状態では自動的にインターロックがかかる,すなわち動作を一時停 止させる機能のことです.この設定下では,加工中にドアを開くと,自動的に フィードホールド状態になり,閉じると再び運転を再開します.この状態では, ハンドルモードやジョグモード,早送りモードでの駆動もできなくなるので, 原点出しなどの作業でドアを開いたまま手動で軸を送る時などには,キャンセ ルしておく必要があります.やり方は,ツールクランプの説明でも述べました が,NCパネル上部(図3の(1))にある「ドアインター ロック解除」キーを使います.キーの左上にはインターロック解除のインジケー タランプがありますが,この赤いランプが点灯している状態が「解除」,消え ている状態が「ロック」になります.

4.3.5 高圧クーラントについて

 切削加工中の工具とワークの間には,摩擦による熱が発生します.一般的に, この熱は工具の損耗を促進させ,また,加工面性状にも悪影響を与える原因と なります.また,工具の切れ刃部分と加工面の間に切り屑が残ると,構成刃先 の形成など,加工面に好ましからざる影響を与えることもあります.したがっ て,A55などの工作機械では,加工部分の冷却と切り屑の洗浄のために冷却 液(クーラント)を高圧で加工部位に吹きつける機能を持っています.高圧クー ラント起動のNCコードは”M8;”です.また,NCパネルのスイッチ( 図3の(7))でも起動・停止が簡単に行なえます.高圧クー ラントを起動すると主軸スピンドルの外周部に取り付けられたノズルから工具 先端部へ向けて連続的に勢いよくクーラントが放出されます.このとき,うっ かりスプラッシュガードドアを開いていると,乳白色の激しい飛沫を全身に浴 びることになるでしょう.使用時には必ずドアを閉めるか,インターロックを 掛けるようにして下さい.なお,高圧クーラントはケミカルウッドの加工には 使用しないで下さい.切り屑が循環装置のフィルタに詰まって故障の原因とな ります.

4.3.6 トラブルシューティング(こんなときには)

制御軸のオーバートラベル

 X,Y,Z各軸の動作範囲には限界があります.この動作範囲を越えて制御 軸を送ろうとしてしまったときに発生するエラーがオーバートラベルです.よ くある原因はNCプログラムの指令値が機械の動作範囲を越えていた場合や, ハンドルモードなど,手動で操作していた場合の送り過ぎなどですが,このエ ラーが出てしまうと,機械は運転を自動停止して動かなくなってしまいます. このとき,NCパネル上部のオーバートラベルを示す黄色いインジケータラン プとその左の赤いアラームインジケータランプが点灯し,ディスプレイ上には 「●軸オーバートラベル」のメッセージが表示されるはずです.これを解除す るにはまず,「アラームリセット」ボタンを押してアラームを解除し,次に 図3の(8)のスイッチ群内の左下にあるオレンジ色の「O T解除」ボタンを押しながら,ハンドルモードもしくは早送りモードなどでオー バートラベルした軸をオーバートラベルから戻す方向に送ってやればOKです.

スピンドルを治具にぶつけた!ツールが折れた!主軸が止まらない!ひぇー!

 まず,何はともあれ,機械を止めることです.NCパネルの左上にある赤い 大きな「非常停止」ボタンをバシッと押して下さい.機械は無条件で全ての動 作を停止してくれます.そこで,負傷者の有無や被害の程度を確認し,速やか に工場の技官の方や上司に報告しましょう.ちなみに非常停止ボタンの解除方 法ですが,ボタンを右に回すと自然に解除位置に復元します.この非常停止ボ タンは全て一斉に止まってくれるので,横着で使うには便利な一面もあるので すが,当然のことながら,プログラム運転中に非常停止を行なうと,全てリセッ トされるので,非常時以外は多用しない方がいいでしょう.

4.4 加工終了後

4.4.1 ワークの取り外し,ツールの取り外し

 加工後のワークや工具を取り外します.手順は取り付けの逆ですので,取り 付けの章を参照して下さい.

4.4.2 電源のOFF

 起動時とは全く逆の順番で各電源を落としていきます.(NC電源→A55 主電源→パーソナルコンピュータ電源→エアコンプレッサ電源→エアコンプレッ サドライヤ電源)

 このとき,NCパネルの上方に貼られた注意書きを読むと,「主軸停止後3分間 は電源を落とさない」とあります.理由は知りませんが,すぐに止めることは機械 に良くないようなので,従って下さい.

4.4.3 FDMATEのshut down

 データ転送に用いたEWSの電源を落とします.まず,一度ログアウトして root でログインし直して下さい.ログインしたら,以下のように打ち込んでシステムの シャットダウンを行なって下さい.

        shutdown -y -g0 -i0

 シャットダウンが正常に終了すると,コンソール画面上に以下のメッセージが出 力されます.このメッセージを確認したら,電源を落としても大丈夫です.

        reboot the system now

 筐体正面の蓋のついた赤いボタンを押すとFDMATEの電源が切れます.

4.4.4 マシニングセンタ周りの掃除

 人として,使ったものはきれいにしておくのが常識でしょう.特にケミカルウッ ドを加工した後は,加工室内は多量の切り屑が付着しています.これらをクリーナ ーで全て除去し,次の加工に備えましょう.また,使用したコレットホルダはテー パー部分に錆止めオイルを付けて所定の位置にしまって下さい.次回の使用時には 必ずテーパー部分の油を拭き取り,また,テーパー部分には手などを触れないよう に注意してください.これは主軸の取り付け精度を保つためです.

5.最後に

 マシニングセンタは非常に便利な工作機械です.コンピュータによる数値制 御を行なうことで,これまで困難であった曲面の加工などを自在に実現できる ようになりました.しかしながら,まだまだ一般の家電製品のようにユーザが 容易に扱えるものにはなっていません.機械の持つ機能や操作法,それらの特 性や危険性などを正しく理解したうえで使用しないと思い通りの成果が得られ ないばかりか,時には思わぬ事故を併発する可能性すらあります.本ページで は,マシニングセンタの一例として,ある一機種に限定して,その安全かつ基 本的な使用方についてできるだけ分かりやすく,必要最小限にまとめたつもり です.まだA55には本書で取り上げなかった様々な機能や使用法が存在しま す.本ページを読んで興味を持たれた方はメーカー発行のマニュアルなどを参 考にして是非試してみて下さい.そのときも,常に安全を第一に心掛けるよう にして下さい.そうすればきっとあなたの世界が開けることでしょう.(なん のこっちゃ)

	1997年7月
	機械制御工学専攻 博士前期課程2年
	伊澤 昌敏

IMS Lab. http://www.ims.mce.uec.ac.jp/
www-admin@ims.mce.uec.ac.jp